ドタバタぶれいか〜ずは海をも渡る

Supreme Levi(現在、サイトは閉鎖されています)のキリ番記念として、リク小説をいただきました。






























7月から8月にかけて、大体の学校では夏休みになる。だがそのおかげ、と言うべきか、そのせい、と言うべきか、BBBは連日フル回転していた。

「依頼料などなど含めまして………5000円になります。」
「5000円………5000円!?」

依頼者もびっくりの低価格。BBBに来る依頼者が同じ目的なので、諸経費がかなり削減できるのである。


皆甘いものをやめてやせたいわけですよ。単純………などと言ったら世の女子高生に猛反発くらいそうなので言いませんけど………少なくともこの世界では、柚子沢氷月の影響でこういう現象が起こっているのです。さすがカリスマ。




午前の営業は終了。快適な環境を作り出すクーラーの設定温度を28度まで上げる。

「依頼者が多いというのは嬉しいことなんだとは思うけど、こうも忙しいとさすがに疲れるね………。」

朔が少々ぐったりし、椅子にもたれかかりながら嘆いていた。ここのところ毎日能力を使いっぱなしで、精神疲労がたまりつつある。


ここでおさらいだが、朔は人間と物、または人間の結びつきが見えるのである。それを切ったりつなげたりすることでその人の好き嫌いを左右するという何とも奇妙な能力を持っている。


「お疲れ様〜。はいこれ。」

ルゥが持ってきたのは冷たいペットボトルのお茶。朔はそれを開けて一口飲んだ。

「はぁ〜………。ルゥ、今日は午前中で何人来たんだっけ?」
「今日は………14人だよ〜。」

ルゥは一応BBBでは秘書の位置についている。仕事に関しては割と朔の指示に従っているようである。

「ここのところ半日で10人超える日が多いなぁ………。」

依頼人が多いというのはいいことなのだが、多すぎると逆に疲れてしまう。働きづめの毎日で、昼休みが貴重な休息となっていた。



そんな安らかな時間もあっという間に過ぎ、午後の業務に入る。今日の依頼者の資料をファイルに整理していると、早速午後1番の依頼者がBBBを訪れる………。




―――コンコンコン




「は〜い。」


ルゥがパタパタとドアのところまで飛んでいき、手際よく開けた。ドアの向こうに立っていたのは1人の青年だった。年齢は朔より少し年上かもしくは同年代、メガネをかけている。


「こちらにどうぞ〜。」


ルゥが依頼者をソファーまで連れてくる。初めて来る人は大抵ルゥに驚くが、この青年は割と平静である。

「この紙に必要事項をお書きくださ〜い。」

用紙に必要事項を書き込んでいく青年。

「………これでいいですか?」
「ありがとうございま〜す。」

ルゥが紙を受け取り、朔に渡す。

久野巧さんですね? 高校生ですか………。」

朔はじっと巧の頭の上辺りを見ていた。

「好きなものは………ん? これは………。」

いつものように朔は相手の物、または人に対するつながりを見ていたが、何を見たのか、声が詰まる。

「今日の依頼内容は………『隕石好きを直して』ということでは………?」
「やはり妹が言っていた通りですね。そうです。僕が今日依頼したいのは、隕石好きを直すことともう一つ、学校好きにしてほしいんです。」

依頼が2つというのは今までなかったパターンではあるが、そういう依頼を受け付けていなかったわけではない。

「現在高校2年なのですが、どうも学校に馴染めなくて………。で、家にこもって本を読むことが多かったんですが、その時に読んだ隕石の本に魅了されてしまって………。来年は受験なので、この機会に直せればと………。お願いできないでしょうか?」
「………わかりました、その依頼、受けましょう。まず、隕石好きを直したほうがよさそうですね。隕石はお持ちですか?」

隕石はなくてもいいのだが、あったほうがつながりを切りやすいのである。だが………。

「隕石は好きなんですけど、実物は持っていないので………。」
「そうですか………。」
「朔、どうしたの?」

なにやら深刻そうな顔をしている。

「結合が強すぎて、隕石が実際にないと切るのは不可能だよ………。」

絶体絶命……とまではいかないが、大ピンチには違いない。残念ながら、このピンチがチャンスになることは起こり得ないだろう。てか、この状況でチャンスとか意味不明ですから。

さて、どうしたものかと考えているが、なければ出来ないのであれば手に入れるしかないだろう。

「朔、どうする?」
「………持つべきものは友人かな………。」

朔はおもむろに机の上に置かれている電話の受話器を取り、どこかに電話をかけた。しばらく電話の相手と話していたが、やがて受話器を置いた。

「ルゥ、アメリカに行く準備を。」
「えぇぇ〜!? 何で!?」
「今、伍諷に聞いてみた。アメリカで最近隕石が落ちたらしくて、そのかけらを少しの間だけ確保しておいてくれるらしい。時間がないから今から向かおう。」

突然出てきた渡米の話に慌てているのは何もルゥだけではない。

「あ、あの、依頼料を払うくらいなら用意してありますけど、アメリカまで行く費用は………。」
「それなら大丈夫、エアフォース・ワンが迎えに来ますので。」


どこまで凄いんだ風見山伍諷。何はともあれ、朔、ルゥ、そして依頼人の巧はアメリカに渡ることになった。………てか、隕石持ってくればいいじゃんとか思わないように。きっと軍事的、政治的な力が働いて隕石は持ってこれないんですよ。





そんなわけでエアフォース・ワンの長旅の後、3人はアメリカの土、もといコンクリートを踏んだ。正確には、アメリカのコンクリートを踏んだ人間の肩に乗っかっているのが1名………。

「アメリカだ〜。」

初めての外国に大喜びのルゥ。一応ルゥが生まれた妖精の里は日本にあります。

「もうすぐ伍諷が来るはず………。」

エアフォース・ワンの近くで立ち往生していると、空港の中のほうから3人に手を振っている人物が見えた。



ここはアメリカ、どこもかしこも英語が飛び交っている。朔たちのほうに手を振っていた青年が空港に入ったばかりの朔たちの元に歩いてきた。この青年こそ、アカデミーを主席で卒業し、在学中に国際連合からお呼びがかかった男、そして朔がルゥと組む原因となった男、風見山伍諷である。

「久しぶりだな〜、元気にしてたか?」
「まぁね。そっちは?」
「こっちは環境の変化で大変だよ。何とか日本製のものを探したりしてるんだけどな。そっちがお前とコンビ組んだっていうルゥちゃんか。初めまして。風見山伍諷です。」
「あ、初めまして。ルゥです。」

ルゥは朔の肩に立ち、ペコリとお辞儀をした。

「で、問題の隕石だけど………ここには持ってきてねぇんだ。国際地球外物質研究センターってところにある。そこまで案内してやるよ。」

4人が空港を出ると、いかにも外車らしい外車が止まっていた。運転手は当然アメリカ人、伍諷がなにやら英語で話しかけ、車のドアを開ける。

「さ、入ってくれ。直通だぜ?」


こうして朔たちは国際地球外物質研究センターと呼ばれる目的の隕石がある場所まで行くことになった。





さすがアメリカ、研究所も大規模である。その駐車場に車を止めると、研究所の人間が朔たちを迎えに来た。英語で何か話しかけている。

「朔、英語喋れないの?」
「まぁ、多少は出来るけど………。」

ルゥに半ばそそのかされた感じになるが、朔が話しかける。なにやらルゥには理解できない言語が飛び交った後、朔が話す。

「かけらは研究室に保管されているらしい。今回は特別に見せてくれるそうだよ。」
「すご〜い!」

朔の肩の上で喜んでいる妖精にアメリカ人もびっくりである。アメリカには妖精の里はないんですかねぇ………。

てか、日本でも驚く人多数ですが。





朔たちを迎えに来たアメリカ人研究者の案内でセンター内を見学する。一通り見終わった後、朔たちを問題の隕石がある研究所に連れて行った。隕石が厳重にケースに入れられている。万が一のために部屋の中に2人、部屋の外に2人のガードマンがつけられていた。

「おぉ〜!! これはまさに隕石!! すごいなぁ……鉱物が埋まっていて所々キラキラ光ってるよ〜。」

一番最初に食いついたのは依頼者の巧。さすが隕石マニアです。てか、ガードマンが警戒しています。朔にはがっちりと隕石に絡みつくのが見えている。

「朔、見えるのか?」

伍諷には見えない。アカデミーで同じクラスであるが、持っている能力は様々、伍諷はまた別の能力を持っているのである。

「うん、がっちり絡み付いてる。やっぱ隕石無しで切るのを止めて正解だったよ。」

朔が巧の後ろにゆっくりと立つ。

「久野さん、よく聞いてください。」
「あ、はい。」

朔は日々の依頼でコツをつかんだようで、どんな依頼者に対してもしっかりと言葉を届ける術を覚えていた。

「今から隕石に対する結合を切ります。隕石から離れ、心の中で『隕石は嫌いだ』と念じてください。その時、目はじっと隕石を見続けていてください。」
「わかりました。」

巧は隕石から少し離れ、必死に心で念じていた。だが、目の前にあるのは夢にまで見た実物の隕石。どうしても手が伸び、体が前のめりになる。

「久野さん!」
「あ、すいません。」

これはどの依頼者にも起こることで仕方がないのだが、あえて厳しい口調で注意する。その方が結合を切るのに有効なのである。やはり心の中で葛藤が起きているようで、体が前にのめったり後ろに仰け反ったりと奇妙な動きを続けている。ガードマンも心配しているようで。

「では……切ります。」

朔の目が真剣になる。すっと手を巧の頭の上に掲げ、一気に右手を引いた。

「うっ!!」

ビキッと背筋が針金のようになる。その異変にガードマンも研究者も慌てふためきだしたが、伍諷が英語で説明する。その後も割と順調に結合を切っていき、ついに最後の結合を切り離した。それと共に巧はがっくりとうなだれる。

「ひとまず終わりました。どうですか?」

ぼーっと隕石を見つめている巧だが、ゆっくりと立ち上がった。

「何でこんなところにいるんですか? こんな石ころを見ていてもつまらないですよ。」
「ひとまず成功だな、朔。」

巧の反応が明らかにそっけないものになっている。ひとまず隕石好きを直すことには成功した。

「ありがとう、伍諷。助かったよ。」
「朔には迷惑かけちまったからな。また何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれよ?」
「うん、また何かあったら頼むよ。」


こうして、依頼は終わった………わけではない。もう1つ残っているのである。ひとまず3人は伍諷と別れ、エアフォース・ワンに乗り、日本に戻っていった。





次は学校好きにするほうの番である。3人は日本に戻るとすぐさま巧が通っている学校に行った。疲れたなどとは言っていられない………のは実は朔だけだったりする。

「あぁ〜、疲れたぁ〜。」

まぁ、これを言っているのは当然ルゥである。てか、ただ朔の肩に乗っかっているだけなのですが。

「ま、もう少しだから………。」
「わかった………。」

肩の上に座るということ自体疲れる作業なのかもしれない。ひとまず電車、徒歩を使い、学校にたどり着いた。

「うわぁ〜………。」

朔には見えていた。巧から学校を拒絶する負のオーラが出てきているのを。それが結合の生成を邪魔しているようだ。

「ひとまず、学校の中に入りましょう。」

3人は学校の中に入ることにした。





いたって普通の学校であるが、朔が通っていたアカデミーとは全く違うようで、朔は物珍しそうに黒板やらチョークやら机やらを眺めている。

「そんなに珍しいですか?」
「え? うん、まぁ、僕が通っていた学校にはこんなものはなかったから………。」

ひとまず巧のクラスに向かう。生徒は教室にはいなかった。

「ひとまず久野さんの席に座ってください。」
「はい。」

教卓の上に乗っかっていた座席表を確かめ、自分の席に座る巧。明らかに拒絶反応が出ているのが朔には見えている。

「ひとまずこのオーラを取り除かないと………。」

朔は手で巧の周りをあおぎながら、オーラを取り払っていく。時々その教室の前を不審者を見るような目で通り過ぎていく生徒の姿が見えていた。そりゃあ、傍から見れば座っている巧に朔が怪しいまじないをかけているようにも見えますから。てか、そうしか見えません。

「ひとまずこれで何とか………。」

次に結合を作り上げる作業に取り掛かる。結合は切るよりも作り上げるほうが作業としては難しい。糸を縒っていくように手を動かし、結合を作る。これもまた怪しい儀式にしか見えない。生徒が走っていくのを見ると、どうやら怪しんで職員室に先生を呼びに行ったようである。

「朔、周りが少し騒がしいよ?」
「もう少しだから………よし、これで完成!」

パッと朔が手を離す……と思っているのは朔だけで、他の人にはそこで何が起こっているかがわからないのである。
「よし、早く帰ろう。」

だが、時すでに遅し。教室の回りは職員室から駆けつけたこの学校の教師によって固められていた。





何とか巧が事情を説明し、丸く収まった。事務所に戻る3人。

「結合が繋がっているかどうかは確認できないんですが、明日になれば大丈夫でしょう。朝起きたら学校に行きたくなりますよ。」
「わかりました、ありがとうございます! それで依頼料のほうは………。」
「え〜っと………ルゥ、計算はどうなってる?」
「はいこれ。」

ルゥが紙を朔に渡す。

「依頼料、出張料、能力料、諸経費含め………20000円………って、安すぎない?」
「いいじゃん、最近依頼者がたくさん来るから、安く見積もっておいたほうが宣伝にもなるよ。」
「でもアメリカまで行ったし―――。」
「文句ある?」
「ないです………。」

やはりこの権力はルゥが強いようで、20000円という超格安でこの依頼は全て終わった。





後日、アメリカでは国際地球外物質研究センターで朔が行った能力行使が奇妙な儀式として新聞に掲載されていたという。伍諷の計らい……というかからかいで、朔の手にもその新聞が届いていたとか。

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