僕は、晴れて四月に、中学二年生という肩書きを手に入れた。
だからといって何も変わるわけでもなく、変わったものといえば肩書きとクラスメイトと教室ぐらいである。
一年のころは特に何も起きることもなく、平穏な毎日を過ごしていたから、
どうせ一個位が上がったところでどうなることも無いだろう、と思い、そのときは新たな教室へと入っていったのだった。
それから二ヶ月後。
やはり何も起きることはなく、数学は習って意味があるのか疑わしい文字式のところで止まっている頃。
僕は、誰とも話すことなく、静かに本を読みながら三時間目が始まるのを待っていた。


「よう」
席の前に来て、信は僕に話しかける。
「今度は何て本を読んでんだ?」
僕は、読むのを止めずに、そっと本を持ち上げて信にカバーを見せた。
「…面白い?」
「うん」
無機質な声で、僕は端的に言い返す。
「登場人物が多くて、誰が犯人かわからなくて」
「へぇ。一がわからないなんて珍しいじゃんか」
「うーん……」
意識を本に戻そうとしたとき、パッと本を取り上げられた。
取り上げたのは、容姿端麗な僕の女友達二人組だ。
「あ、新しい本だ!」
鈴は、本のページをパラパラめくり、難しい顔をした。
「今回のも難しそうね……尚は興味ある?」
鈴の隣で、静かに本を覗き込んでいた尚は、小さく微笑みながら、
「このお話、とても面白そうですよ。一くんが読み終わりましたら、次に読ませてくださいね」
「うん、もうすぐ読み終わるから、終わったら貸してあげるよ」
「ありがとうございます」
尚は律儀に頭を下げ、そのやさしい笑顔をみんなに振りまいた。
ちょうど学校は休み時間の終了を告げ、僕は鈴から受け取った本を机の中にしまい、引き換えに社会の教科書を引っ張り出す。
そして、前にいた三人も、それぞれ自分の席に向かって散り散りになっていった。


 

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