三時間目の社会の次は体育。
いつもの様に衣服を着替え、少しずつ暑くなっていく空気と春風がいっぱいの屋外へ、信と共に飛び出した。

この時期は100m走が単元で、個人のタイムを計っては先生は成績をつけるという地獄サイクルの中、
通常ならば男女別に授業を受けるのだが、今回は同時に行っている。
何も考えず機械的に体をほぐしていると、僕の番になった。
「体育は苦手だからなぁ…」
独り言をつぶやきながら、スタートラインに手を添え、ホイッスルと同時に地を蹴った。

記録、18秒8。
「いつもより早いじゃん」
出席番号から見て、一番最後に走る信が、息切れを起こしている僕に駆け寄って来た。
「でも18秒だよ?遅いでしょ、このタイムは」
「んー……まぁ、平均よりは遅いな」
正直に言ってくれるのが一番助かるものだ。
他のやつらのタイムを聞いたり、タイムが縮まる方法を信にレクチャーされていると、女子側レーンでは尚の番が来た。
ちなみに、鈴は13秒6という、驚異的なタイムで、学年中女子ダントツ一位という、優れた記録をたたき出したようだ。
尚は、大きな音を上げるホイッスルによるスタートの合図に、少しとまどいながらも走り出し、フォームもそこそこいい状態で、ペースも一定に保たれている。
…保ててるのだが、やはり足の力に欠点があるのか、速度は極端に遅いまま、これもまた一定に保たれていた。
「記録、24秒2!」
女子担当の先生が大声で叫んだ。
これでも、尚にとっては早いほうのタイムだ。
「がんばったね」と、向こうのほうから鈴の声が聞こえてきた。

その後も順調にタイムは計られていき、ついに大トリをしめる信の計測となった。
すでに計測を終えている男子は、じっと白線の内側で静かにそのときを待ち構え、
男子より人数が少ないために、とっくに全員測り終えている女子も、男子のようにスタートに立つ信を見続けていた。
2-3すべての視線が向けられている注目の的は、ホイッスルの音でクラウチングスタートの体制を崩してラインをまたぎ、
疾風の如くという言葉がふさわしいほどの、爽快な走りを見せ続けていた。徐々にスピードは上がっていく。
どうしてこんなに速いんだ?走りを司る神様は、僕より信のほうが好みらしい。
「記録、12秒4!!」
ゴールに視点をあわせている全員が、大きな拍手を最高記録保持者に送っていた。
僕の手が出すその音も、大きな拍手の中に紛れ込んでいったのだった。


  

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