僕が少なからずの情報収集を終え、給食当番という重要事項を思い出し、仕事に戻ろうとしたときだった。
「……倉田!」
どこかしら、かすれた声で僕を呼んだような気がしたので振り返ると、
半泣きの谷村が、意味無く騒ぎ立てる野次馬をかいくぐって、僕のもとにやって来た。
「倉田、助けて……」
「……え?」
「倉田の力で助けてよ…」
谷村は、目で訴えているものの、僕は訴えの意味をうまくつかみ取れなかった。
「本当の犯人見つけて、僕の無実を証明してよ……」
「は?」
ごめん、理由は?
「いつも推理小説の本を読んでるよね?」
「読んではいるけど……」
「だから」
だから、って。おいおい…。
「頼む。お願いだから…」
なんだよそれ。小説読んでるからって推理力が養われてるわけじゃないんだが……。
それに、そんな顔して頼まれると、こっちまで悲しくなってきてしまうじゃないか。

「おい、何助け求めてやがる?」
こんなやり取りは公共の場で行われており、すなわちここにいる全員が見聞してるわけだ。
当然、黙っていないのは犯行を認めさせる側、ここで言う藤野だよな。
「無実って言うのは、本当に何もしてない人間のことを言うんだ」
「僕は本当に何もしてないんだって…」
「嘘つけ!」
藤野は、ここにいる人間全員を代表してるんだ、といわんばかりに、
「盗める奴はお前しかいないんだよ!さっさと白状しろ!こんな役立たずに頼んだところで、状況は何にも変わんねーだろ!?」
藤野は鼻で軽く笑った。そのとき、僕は無意識に、今藤野の口から出た言葉を振り返っていた。
役立たず……?
確かに僕は何をしても失敗ばっかりの役に立たないダメな人間だ。
だが、盗みと何も関係なくしゃしゃり出て、人を困らせてるお前には言われたくないな。
藤野はさらに勢いを増し、暴言に近い言葉を発し続けていた。
「時間稼ぎなんていいからさっさと財布を中鵑吠屬察谷村!」
「だから僕は……」
「もういい、谷村」
聞き取りにくい谷村の声を止め、エプロンを脱ぎながら僕は、怒りを表に出さないように、落ち着かせながら言った。
「谷村の無実、証明してあげるよ」
「……本当!?」
「うん」
返事をした僕は、皆が見ている中、藤野のほうへ向き直りって、こう言った。
「僕が本当の犯人を見つけ出して、谷村の無実を証明すれば、僕は役に立たない人間じゃないよね……?」

後から聞いた話だと、僕はいつもののんびりしたような顔じゃなかったそうだ。このときは本当に頭にきていたからな。
頭に血が上るとはまさにこのことなのだろう。僕は無意識のうちに、自身ありげな声で、藤野の言葉の挑戦を受けていた。


  

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