放課後、部活動も完全下校時間を向かえ、
部活動生が帰り支度をし、ぞろぞろと下校する中、
グラウンドの階段近くの草むらで、怪しげにうごめく影があった。

「よう、藤野」
草むらの中、しゃがみこんでひたすら土を掘り返す、藤野の背中を前に、
信はいつものように声をかける。
藤野はこっちを振り向く。すかさず、藤野は目を見開いた。
そりゃ、僕、信、鈴、尚、谷村、中鵑力賛佑、藤野のことを、自信満々に見下ろしているのだから。
「そんなところで何してるのかな〜?ふ・じ・の・君!」
「な、何って……」
言葉に詰まるのが当たり前だろう。
「藤野。僕の勝ち、だね」
「な、何言ってるんだ?お前ら、揃って何してんだよ」
「藤野さん、もう観念することです。もう逃げる事は出来ませんよ」
「はぁ?何が。何言ってんだよ、お前ら」
言わなきゃわかんないか、こいつは。
「藤野。お前が中鵑虜睇曚鯏陲鵑誠身反諭△世茲諭
「えっ……」
「何もかも、全部わかってるよ」
「な……証拠、証拠あるのか!」
はぁ……いきなり証拠か。
その言葉、自白と同じようなもんだぞ……
せめて根拠って言って欲しいね。
「藤野は、気分が悪いと言い出して、二時間目、少しの間参加してなかったようだね。
 そのとき、まだお前は財布を盗もうだなんて思っていなかった」
「そりゃ、その頃の藤野は、まだ財布があることすら知らなかったんだからな」
「でも、体育の前の休み時間、中鵑自分で、『大金が入った財布が鞄の中に入っている』と言っていたのを、つい聞いちゃった、でしょ?」
「それで、とっさに盗む方法を考え付いてしまった、ということですね」
なんだ、みんな、なかなか鋭いところをついているじゃないか。
これなら、僕の独壇場になることはない。みんな、一生懸命協力してたのに、僕だけおいしいところ独り占めしちゃ、後味わるいからな。
「で、藤野は中瀬が教室を出て行ったのを確認して、一旦教室を出た。
 もちろん、教室に戻る要因として、レポート用紙をロッカーに入れたままね」
「そして、教室の鍵を谷村が閉めようとしたところに、忘れ物をした、と谷村に言い、一人教室の中へ入っていった」
藤野は、黙って僕らの話を聞いている。つっこむ所を見極めているのだろうか。
「そのまま、中鵑気鵑離蹈奪ーから財布を抜き出して、グラウンドに向かったのですね」
「ちょっと待て、お前ら」
ほら来た。
「俺は、自分のロッカーにしか手を入れていない。その証拠に、俺はちゃんとレポート用紙を持ってきたんだ。
 なんなら、そこで突っ立ってる谷村に、聞いてみればいい。こいつも、その場に居合わせてたんだからな」
やっぱりそこか。
谷村にも事前に聞いたさ。その結果は、藤野が言うとおり「藤野のロッカーにしか手を入れていなかった」だ。
「は〜い、ここでクイズで〜す!」
「は?」
「藤野さぁ、出席番号いくつ?」
「そんなの関係ねぇだろ。それより、俺の言ったことに筋を……」
「ま、いいからいいから」
「ちっ…俺は、21番だけど」
そう。藤野の出席番号は、自身が言うとおり、21番なんだよ。
「じゃあ、中鵑糧峭罎浪身屬世隼廚Α」
「ふん、他人の番号なんて知るか」
「そっか〜。知らないか〜。中鵑呂諭25番なんだよ」
「25……?」
ま、犯人だから、わかるだろうけど……
「藤野、お前と中鵑蓮⊇仞僻峭罎4番違いなんだ」
「つまり、ロッカーが隣どおし、ってことだな」
瞬間、藤野の顔が、ハッとした。
そう。芦屋の聴取を終えて教室に戻ったあのとき、ロッカーを見て気づいたんだ。
藤野と中鵑蓮二木→蓮田→冨士の三人を挟んで、出席番号が4番分違い、ロッカーは全部で四段。
つまり、4番違いのやつは、みんな隣どおし、ということになるわけだ。
「藤野さんは、藤野さんロッカーの右隣に中鵑気鵑離蹈奪ーがあることに注目して、
 自分のレポート用紙を取り出しながら、隣にある中鵑粒鵑ら、財布を抜き取ったのです」
「う……」
「ポケットかどこかに財布を入れたまま、グラウンドへ降りる階段に座り込んだ藤野は、
 その後の財布のやり場がないことに気づいたのよね」
「このままだと、教室へ戻って、中鵑財布を盗まれたことに気づいたとき、
 自分が持っていては、どうしようもないと考えたんだろ」
………
あれ?そこから、三人は急に黙り込んでしまった。
わかるのはここまで、なのか?
三人のほうを振り向くと、三人は「後は任せた」的なニュアンスを含んだ眼差しを、僕に注いできた。
あと全部僕でいいの?……いいみたいなので、続けよう。
「そして、とっさに思いついたのが、この草むらに隠すってことだったんだ」
藤野は、無意識に、自分の後ろにある掘り返した跡を手で隠した。
「ここなら、外からじゃよく見えない死角だし、財布一つあることすら気づかれないだろうからね。
 藤野は、この場所に財布を投げ込んだ」
「待って、そんな不審なことしてたら、誰かに気づかれるんじゃないの?」
鈴が疑問を投げかけた。それを聞いた藤野が「そうだそうだ」と言わんばかりに、頭を小刻みに振りまくる。
「鈴、思い出してみて。一度、グラウンドに居た者すべての視線を集めた出来事があったでしょ」
「……あ!もしかして、信の番の?」
「そう。あの時、全員の視線は、信に注がれていた。
 みんなが別のところを見ている隙をついて、藤野は草むらに財布を放ったんだよ。
 その後、藤野が心配していた通り、財布が盗まれたことがバレてしまい、
 教室の鍵を持っていて、かつ一緒に見学していた谷村に、罪をなすりつけたわけ」
「あ、そうか。それであんなに騒いでたのね……」
「うん。あんなに騒いでちゃ、逆に怪しまれやすくなるんだけど」
それでも、自分が犯した事件が明るみになったら、冷静にいられるほうが難しい。
藤野なら、なおさらだろう。
「ここで、事件発覚してしまったことを恐れた藤野は、
 さらに自己を安息させるために、とあるアクションを起こした。それが、」
「地面に埋めた、ですね」
「そう。気分が悪いことを理由にして、サッカーには参加せず、ずっと階段で友達のプレイを見続け、
 皆がボールに集中しているタイミングを見計らって、財布を地面に埋めたんだ。
 そのせいで、昼休みが終わる頃には、手が泥だらけになっていた」
これが、犯行方法の全貌である。
藤野は、まだ黙ったままだ。
「藤野の失敗は三つ。一つは、発言に気を使わなかったこと」
「どういう意味ですか?」
「藤野は、昨日、つじつまが合わない発言をしていたんだ」
これが、僕がさっきから感じていた、最大の矛盾であり、犯人特定の決定打の一つだ。
「……俺が、そんなこと…」
「言ったよ。僕は鈴を通して聞いたんだけどね」
「あ、さっき言ってた、昨日の一からの質問に答えたときのあたしの言葉のこと?」
「うん。鈴は、僕に『谷村は、先生に鍵を持ったまま、校舎の方へ向かった』って言った。
 けど、実際、谷村は持って行かなかった。いや、“持って行けなかった”のほうが正しいかな」
「あ、そっか、谷村は鍵をなくしてるんだから、持ったままなんて絶対無理……」
「そういうこと」
普通に聞いていれば、ただの矛盾で済まされてしまう。
「問題は、鈴が事前に『藤野が言うには』とつけていたところ」
「確かに、その矛盾は藤野さんが大声でおっしゃっていましたね」
藤野が歯を食いしばっている。
自分の失態にようやく気づいたか。
「谷村をより犯人に仕立て上げるためについた嘘が、逆に自分への疑いの確証を得させてしまったってわけだよ、藤野」
「く…っ……」
「二つ目。藤野は、ちょっとはしゃぎすぎた」
「何だ、それ?」
「藤野、お前は、二時間目から、昼休みのときも、部活のときも、一日中体調が悪かったそうだけど、
 何で、あの騒動のときだけ、元気いっぱいに大声上げてたの?」
「あっ……」
「そうか、財布を隠すためにした小細工が、藤野自身を追い詰めてしまったわけか」
「うん」
このミスのお陰で、さっきの危険な策を思いついたわけだ。
ややこしいことをしてくれたもんだ。
ま、策もうまくいったことだし、今はよしとするかな。
「で、三つ目は?」
三つ目は……
「僕を挑発し、それを僕が真に受けてしまったことだよ」
藤野が、僕に対して、熱くならなければ、僕は捜査なんかしてなかっただろうし、
ここまで真相を突き止めていなかっただろう。
こんな根本的なところを、今更悔やんだって、どうしようもないが、一番の藤野の失態なのだ。
「ところで」
藤野が口を開き、質問をしてきた。
「どうして、財布を埋めた場所を、ここだと考えたんだ?」
「それが、捜査のしようがなくて、今までわからなかったんだよ」
「何…?」
「藤野がここに来てくれたお陰で、今わかったんだ。ありがとね」
藤野は、理解で着ていないようだ。
目を泳がせ、どういうことか把握しようとしているのがよくわかる。
「あっ!……まさか、さっきのあれは…」
やっとわかったか。
「昼休みの終わりごろ……お前ら、この場所を突き止めるために……俺をはめやがったのか……」
「はめたなんて、人聞きの悪いこと言うね〜。あたしたちは、誘導作戦をしたまでだよ」
「くっそ……こいつら……」
藤野が怒るのも無理はないな。
僕が考え付いた危険な策というのは……

『谷村、昼休みが終わった直後に、皆にあやまるんだ。
 「盗んだ犯人は僕でした。すみませんでした」って』
『え!?何で!?倉田までそんなこと……』
『僕は、谷村を信じてる。だからお願いしてるんだよ。
 頼む、真犯人を財布の在り処へおびき寄せるには、これしかないんだ!』
『そんな……無実で罪を認めるなんて……』
『これがうまくいけば、谷村の無実は、クラス全体に証明されるんだよ』
『うまくいかなかったら……?』
『絶対うまくいく。僕を信じて、谷村!』
『う、うぅ〜……』
最初は完全に拒否していた谷村も、誠意が通じたのか、なんとか同意してくれた。
犯人は、どうしても誰かに罪を着させたくて、昨日の騒動を起こしたんだ。
ならば、谷村が罪を認めれば、犯人は自分に疑いがかかることなく、
僕らが犯人探しをあきらめたんだ、と安心して、しっぽを出すんじゃないか?と僕は考えた。
昼休みが終わり、クラスの全員がそろったところで、
僕らや中鵑領ち合いのもと、壇上で谷村に嘘の自白をさせた。
罵声を飛ばす者もいた。だが、中鵑法峩發鯤屬靴討發蕕┐譴亠す」という言葉を言わせたことで、その場は落ち着いた。
そして、これを機に、もう僕らが捜査することもないと確信した犯人は、まんまと、ここにこうしてぼろを出しているわけだ。

五、六時間目、谷村はものすごくつらかったという。
視線を痛いほどに感じていたらしい。グサリと心臓が突き刺されたような感覚を覚えたとか。
放課後は、美術部の部室で、谷村、中鵑箸發匹癲△くまっていた。
谷村を落ち着いた場所に避難させ、藤野が行動したら、即対処できるようにするために。
「僕がこうして勝利宣言しているのも、この四人と、中鵝谷村の協力のおかげだよ」
みんなに、誇らしげな笑みが浮かび上がっていた。
あとは、藤野が犯人であることを、自分から告白するだけだ。
「さぁ、罪を認めるんだ、藤野。罪を認めて、楽になろう」
「……ふっ」
ん?どうしたんだ、藤野のやつ。
「ははは、よく出来てるよ。さすが、推理小説好きだな」
……こいつ、立ち直りやがった!
ここまで追い詰められても、まだ…?


  

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