翌日。
谷村が、クラスメイトから嫌がらせをされないかどうか不安になった僕らは、
谷村と共に通学し、教室の扉を開けた。
そこには、もう藤野と中鵑了僂あり、
藤野のほうは、昨日谷村が提案した方法をすべく、しっかりと覚悟を決めているようだ。

一時間目が始まる前。
先生がいなくなってから、クラスメイトが全員いることを確認して、
僕ら七人は壇上に立った。
「みんな。俺の話、聞いてくれないか」
藤野の言葉に、教室のなかが一気にしんとなる。
「ごめん!中鵑虜睇曚鯏陲鵑世痢俺なんだ!」
「……は?」
クラスの一人が、声を上げた。
「嘘つくなよ、藤野。昨日、谷村が自分から自白したじゃんか」
「あれは、財布を隠した場所を突き止めるために、僕がやらせたんだ」
「はぁ?倉田のせいか?こうして藤野が演技してるのも」
「俺は演技なんかしていない。だから、こうして謝ってる」
藤野の本気に、そいつも黙り込んだ。
「みんな、だまして悪かった。この通り、ごめん!」
藤野は、教卓の横で土下座をし、誠心誠意、自分の気持ちを伝えた。
そして、昨日あったこと、藤野が何故盗んでしまったのか、
捜査協力してくれた人たちへの感謝の気持ちを一通り述べて、懺悔のひとときは終わった。
みんな、それなりにわかってくれたようで、谷村を迫害する声も無くなり、
藤野を責め立てることもなく、この場は自然な形で収まりがついた。

それだけじゃない。
谷村は、気の毒な藤野を救おうと、脅されたことを大人に相談しよう、と提案した。
「脅された言葉にも屈せず、勇気を出して相談する。
 それが、藤野くんの一番の償いだよ」
谷村の優しい言葉に、藤野は涙を浮かべながら、うなずいた。
今一番信頼できる、担任の有山先生に、
犯人は藤野だったことと、盗んだ動機、脅されていたことを伝え、どうにかできないかと相談した。
それが基となり、数日後、藤野を脅した小学校以来の知人は、逮捕された。
中学に入ってから、急に態度が変わりだし、いろんな人から金を巻き上げていたようで、
逮捕の知らせを聞いたとき、藤野は複雑な気持ちだったに違いない。
有山先生に、この事件のことは漏らさないよう忠告していたおかげで、
中鵑虜睇曚盗まれたこと、谷村が冤罪をかけられたこと、藤野が真犯人だったことはどこにも漏れることは無く、
ただの紛失騒動という名目だけで、事は済まされたのだった。

「なぁ、倉田、この本、俺にも貸してくれよ」
「うん、いいよ」
「次、誰かが盗みをしでかしたら、俺が解決しようと思ってさ。
 盗んだやつの気持ち、俺しかわかんないだろ?」
「ははは、そうだね。でも、藤野はもう盗みをしでかしたらダメだよ?」
「わかってるよ。もうあんなことしねぇって」
あの事件以来、中鵑籠L遒燭舛箸眞舂匹なり、
いつしか、クラスメイトからの嫌味な視線、疎みのオーラも感じなくなった。
……というか、僕はむしろ、クラスに溶け込めるようになっている。
今まで話したこともないやつらとも、頻繁に話すようになり、
『おとなしくて口数少ない』というイメージも、次第に払拭されたようだ。
藤野も、犯人だという理由で疎外されることもない。
これは、谷村のお陰だ。
谷村は、「僕と同じような気持ちには、誰もさせたくない」と、クラス全体に呼びかけた。
「普段と同じように接してあげて欲しい」と。
この必死の説得が効いたのか、谷村も、少しずつ注目度が増しているとか。
もともと、谷村のことは誰も興味がなかったんだ。
人間というのは、何でも興味を持ちたがる、って冒頭に言ったよな。
少しのきっかけさえあれば、人間誰でも変わることが出来る。
谷村も、学校生活が楽しくなってきているみたいで、どんどんキャラが明るくなっているのだから。
あの事件があって、このクラスは一段と変化したような気がするよ。
もちろん、いい方向にね。
どうやら、僕のしたことは間違ってなかったようだ。
そして何より……
「一、今週末、映画でもいかねぇか?」
「あ、いいね。僕、観たい映画があって」
「また推理モノなんじゃないの〜?」
「へへ、当たり」
「あ、私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「当たり前でしょ!あたしたち、四人揃って『はまりな』なんだから!」
あ〜……
「そういえば、僕たち、いつの間にか『はまりな』で通っちゃってるよね」
「嫌なのか?一は」
「……いや別に。もう慣れたよ」
原因は、藤野が謝罪したときの、谷村の発言だった。

『この四人が、真実を突き止めたんだよ。
 ありがとう!“はまりな”のみんな!』
『……え、何?その“はまりな”って』
急に言い出すものだから、鈴が思わず言い返した。
『四人の総称だよ。みんなの下の名前って、一、信、鈴、尚でしょ?
 その頭文字をとって、“はまりな”。どう?』
いや、どうって言われても……
『谷村、すごーい!ネーミングセンスあるね!』
いやいやいや。
『はまりな、かぁ〜!いいね!みんなはどう思う?』
『なかなかいいと思いますよ』
おいおい。
『ま、それでもいんじゃねぇの?俺らの名前をいちいち呼ぶのは、面倒だろうし』
待て待て。
『一はどう思う?いい名前だよね!』
『えっ……う、う〜ん……』
『はい、決まり!あたし達、これから“はまりな”だねっ!』

あの時は、ただの鈴のノリだけだと思ってたけど、
だんだんと、クラスメイトも、先生でさえも、僕らをまとめて呼ぶときは『はまりな』って呼び出して、
もう僕らは『はまりな』としか、とらえられなくなっているんだよなぁ……
「いいじゃん、いいじゃん!戦隊モノみたいでさ、何かカッコよくない?」
「私は、気に入っていますよ。皆さんに、はまりなって固有名詞で呼んでいただけると、うれしくなっちゃいます」
はぁ……まぁ、もう、今更言ったってなにも変えられないんだけどね。
「で、映画だけど、結局何観るんだ?」
「一が見たいって言ってる、推理モノでしょ」
「いいの?また僕の案で」
「いいですよ。一くんの提案する映画は、全部面白いですから」
「……本当に?」
残りの二人もうなずく。
四人で遊ぶことの同意の証。いつもの日常に戻った証拠。
「じゃあ、それ観にいこうか!はまりなの四人で!」
「おっ、一が初めて口にしたぞ、はまりなって」
「もう開き直るしかないでしょ!」
「やっぱり嫌がってるんじゃないの〜?」
「嫌がってないって」
ははは、と笑う中、さっきまで笑っていた尚が、真顔でぼーっとしていた。
「どうしたの?尚」
尚はハッとして、
「いえ、以前から思っていたんですが……藤野さんは、脚のことを隠すために、仮病を使っていたんですよね」
「そうだよ」
「ですが、私が藤野さんを見たときは確かに、顔が引きつって、青ざめていました」
ああ、そういうことも言ってたな。
「私の勘違いだったのでしょうか……そうしたら、皆さんの捜査をかく乱させてしまった恐れが……」
「……いや、藤野は尚が見たとおり、青ざめていたはずだよ」
「え……?」
「藤野は、元々悪いことなんて出来ないやつなんだ。そんな人間が、慣れないことしたら、自然と顔にでてくるものだよ。
 尚は、ちゃんと正しいことを僕に教えてくれた。だからこそ、事件を正しく解決できたんだ。ありがとう」
尚は、目を細め、優しい微笑みの中、そっと、それでいてはっきりと、元気に言った。
「はいっ!」
僕は、尚の笑顔につられて、笑みをつくり、微笑み返した。


もしかしたら、これが始まりだったのかもしれない。
大体、一日で解決するような事件だ。こんな、推理小説のカケラにも及ばない事件が、すべての始まりだと、誰が思うだろうか。
少なくとも、僕は思わなかった。

そうだなぁ……少なくとも、夏休みが明けるまでは。


 

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