近くのバス停でバスに乗り、向かった先は大きなショッピングモールである。
普通のデパートより3倍ほど敷地面積が広いここで、祥と優花はイブの夜を過ごそうとしていた。
「まず映画を見に行こうか。」
フロアマップの「映画館」というところを指しながら、祥は提案した。
「優花が見たいって言った映画のチケットとってあるから。」
「うん。」
それは、クリスマスの夜に子供達が不思議なことに巻き込まれる、ファンタジー映画だった。
二人はポップコーンとジュース、コーヒーを買って、場内へと入っていった。

さて、二人が映画を見ている間、この二人の関係を少し洗っておこう。
二人は杉原祥と松田優花、冒頭からわかるように恋人同士、カップルである。
二人は高校一年生、今までずっと同じ学校であり、いつも仲良く遊んでいた幼馴染だ。
中学三年の卒業式の日、祥が優花に告白し、付き合うことになり、現在に至っている。
一昨日から学校は冬休みに入り、余裕を持ってこの日を迎えることができ、
さらに今日は二人にとって初めてのクリスマスイブであり、恋人にとって特別な日でもあるから、二人はさらに気持ちが高まっている状態で、上映中、互いの手を離すことはなかった。

「すっごく良かったね。」
映画が終わり、映画館を出てフロアを散策しながら、優花が言った。
「特に、最後のクライマックス、私ちょっぴり泣いちゃった。」
「そういえば泣いてたな。確かにあの場面は感動するよ。」
「だよね?」
と言うと、優花は祥と腕を組み、ご機嫌そうな足取りになった。

「あ、そういえば、クリスマスプレゼントは何がいいんだ?」
急に思い出したかのように、祥ははっとひらめき、優花に問いかけた。
「初めてのプレゼントだし、なるべく優花が欲しいものにしたいんだけど……。」
「ありがとう!でも、私の欲しいものは……。」
そのとき、視線がウインドウに移り、優花はガラスの向こう側にいるマネキンが持っているバッグを指差した。
「これ、去年からずっとかわいいなって思ってて、欲しいんだけど……。」
優花につられてバッグに視線を変えた祥は、値段タグをゆっくりと読んだ。
「25000円……」
「あ、でも、欲しいっていうだけで、祥にもらいたいって訳じゃないから……。」
優花は祥から離した手を振り、必死に弁解した。
「ただ紹介しただけ。祥にもらいたいものがあったら言うから。」
祥はうなって、
「……本当はこれを買ってあげたいんだけど、さすがに25000円は……ごめんな。」
「いや、そういうつもりで言ったわけじゃないし…」
優花はさらに強く手を振った。
「また何か欲しいものを見つけたら言ってくれ。出来る限りプレゼントするから。」
「うん。ありがと。」
優花は、もう一度優祥の腕に手を通し、二人はゆっくりと歩き始めた。
クリスマス前夜は、まだ始まったばかりだった……。


  

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