フードフロアでお腹を満たすと、今度はゲームセンターに移動した。
「祥、あれが欲しい!」
優花の目の先には、クレーンゲームのボックスに入っている小さなクマのぬいぐるみがあった。
「すごくかわいい……」
うっとりしている優花の横で、祥は財布を取り出し、硬貨を何枚か手の中に収めた。
「やってみるか?」
「やってみたい!」
無邪気に喜ぶ優花を見て、祥は何とも言えない気持ちになった。
「でも、これとプレゼントは別物だからな。」
「えっ、そうなの?」
二人はコインを投入し、陽気な音楽と共に動き出すクレーンを操作し始めた。

一発で手に入れたぬいぐるみを持ったまましばらく歩き続けた二人は、だいぶ疲れてきたようで、途中で買ったアイスクリームのゴミをゴミ箱へ入れ、二人は近くにあったベンチに腰を下ろした。
「よくここに来るけどこんなに楽しいのは初めてだよ。」
小さなあくびをして、
「時間も忘れて遊んじゃった。」
少し休み、優花はなめらかな口調で、
「今、何時?」
と問いかけた。
問いかけられたほうは、腕時計を見て、
「九時二十七分。もうすぐ九時半だ。」
「……そっか。」
いろんな人がベンチを横切っていく中、祥はまだまだ続く通路を眺めていた。
「で、結局プレゼントは決まっ…」
祥が言いかけたとき、左肩にずしりと重力がかかった。
見ると、優花の頭が左肩に寄りかかり、優花はぬいぐるみを抱いたまま目を閉じて、静かに眠りについていた。
「寝ちゃったか。」
祥はたまらなくなり、優花の頭をそっと撫でた。
「……かわいいな、お前。」
普段の声とは違う、優しい声で優花につぶやいたとき、
店内のムードを作り出していたクリスマスソングの一つ、ある曲に変わった。
「おっ、きよしこの夜。」
すぐに気づいた祥は、すっと目を閉じ、きよしこの夜を心から聞きはじめた。
次第に祥の気持ちも落ち着き始め、意識が薄れてきて、優花のほうへもたれかかり始めた。

それでも、きよしこの夜は、何事も無いかのように流れ続けていた。


  

inserted by FC2 system