外に出たものの、外も大して変わらなかった。
というより、全く変わっていなかった。
店に入る前、店から聞こえた物寂しげなクリスマスソングも今では聞こえなくなっており、
並んで歩くカップルの話し声も、遠くの線路を走る電車の車輪の音も、近くの川のせせらぎも、二人の希望に答えることはなかった。
「どうすれば……」
ただ立ち尽くすだけの二人を、冷たい空気が覆いかぶさり、二人だけの静寂度をさらに増していた。
「もしかして、これ、別の世界なんじゃない?」
無類のファンタジー好き少女は、乱れた髪を指で直しながら続けた。
「今、この世界にいるのは私と祥だけで、他の人たちは皆普通の世界にいて、私達は他の音が聞こえず、他の人たちは私達の声や足音とかが聞こえないの。」
「元の世界に似たパラレルワールドって事か……」
祥はまた腕を組み、
「現実性は無いけど、今は現実も信じられないし、一番表しやすい考え方かもな。」
そういうと祥は、近くの壁にもたれかかり、星の光も届かない真っ暗な空を見上げ、大きな溜息をついた。

二人は再び店に入り、音を聞き取ることができない自動販売機で買ったコーンスープを、
さっきのベンチにすわってちびちび飲んでいた。
「……音楽でも聴くか?」
「聞こえるわけ無いでしょ。」
祥は残りのスープを全部飲み干した。
「だよな……」
「……でも、音の無い世界がこんなに寂しいものだとは思わなかったな。」
優花は、まだスープが入っている暖かい缶を握りしめて言った。
「工事の音とか、電車の中での通話とか、迷惑だなって思ってたけど、逆になさすぎるのも寂しいね。」
「だな。」
「何でもいいから、早く何かの音を聞きたいな……」
優花の台詞を聞き、祥はおもむろにポケットからミュージックプレーヤーを取り出し、ボタンを押した。
「……俺たちの期待には答えてくれないか。」
とそのとき、イヤホンから聞こえるはずが無いものが、突然流れてきた。
祥は驚愕し、
「お、おい、聞こえるぞ。」
「えっ?」
「他の曲は聞こえないけど、きよしこの夜だけ、確かに聞こえるぞ。」
「ほ、本当?」
祥は優花に片方のイヤホンを渡し、優花はそれを耳に当てた。
「……本当だ、聞こえる……」
このイヤホンから奏でられるきよしこの夜は、二人の唯一の救いになっていた。

  

inserted by FC2 system