「このきよしこの夜が、何かの鍵になってるのか?」
祥は三度腕組をし、
「きよしこの夜……きよし、この夜……そういえば、寝る直前に流れてたな、きよしこの夜が…………優花?」
「きゃっ、何?」
さっきからずっとイヤホンを耳に当てている優花に、祥は質問をした。
「『静かな』を英語に訳したら、どうなる?」
「えっ、静かな?…うーんと……quiet、かな。」
「quiet……quietか……」
黙りこける祥を見て、優花はもう一言付け加えた。
「あ、でもsilent、とも言うけど。」
「silent?silent……」
すると、祥の頭にひらめきが生じ、
「……もしかしたら、この世界に入ってしまった理由がわかったかもしれない。」
「えっ、それ、どういう意味?」
イヤホンをはずす優花の目をじっと見て、
「この世界から抜け出せるかもしれない。」

「どうやって!?」
優花の顔に希望のサインが現れた。
「それは、このきよしこの夜を使って……」
と、祥はイヤホンを耳につけた。
しかし、きよしこの夜はもう流れていなかった。
「あ、あれっ……まさか、電池切れか?」
本体を確認してみると、確かに電池が切れ、電源が停止していた。
「くそっ、こんなときに限って……」
「ねぇ、どうやったらこの世界から抜け出せるの?」
一刻も早く抜け出したい優花は、頭を抱える祥に何度も問いただしていた。
しかし、祥はそれを無視し、新しく思いついた考えを実行させようとしていた。
「優花、家に帰って一緒に寝るぞ。」
「えっ?」
優花は顔を真っ赤にし、
「まさか、隆君の言ったことを本気にしてるんじゃ……」
「違う!そういうことじゃなくて、きよしこの夜を聞きながら、服を着たままベッドの上で目をつむるんだよ。」
「なんだ……」
優花の安堵感の中に、がっかりしている要素も含まれているような感覚に、祥は陥った。
「で、家できよしこの夜を聞く理由は?」
「どうせここにいてもきよしこの夜は流れてこないだろうし、他のところできよしこの夜を聞こうとすると、聞けるかどうかは賭けになる。それなら、家に帰って聞くのが一番確かだろ。」
「何でそこまできよしこの夜にこだわるの?」
「それは帰りながら説明するから。」
祥は優花の手を引っ張り、大急ぎで店を出た。

  

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