目を開けた祥の正面には、さっきと同じ優花の顔がこちらを向いていて、祥は何かの衝動に駆られてしまった。
頭上から聞こえるきよしこの夜を止めるため、ゆっくりを体を起こした祥は、異変に気づいた。
毛布のこすれる音が聞こえ、ラジカセのボタンの音が聞こえたのだ。
机の上にある時計を見ると、10時34分。さっきと同じような時間しか眠っていなかった。
「優花。」
小声で耳元に囁くと、今度は聞き分けが良く、
「ん……あ、祥。そうだ、元に戻ったの?」
飛び起きた優花は、毛布のぼさっという音を聞いて、
「元に…戻ったのね?」
祥は、首を縦に振った。
「ああ。戻った。」
「祥の言ったとおりだったんだ。」
周りを見渡す優花は、時計を見てはっとして、
「あっ!もうこんな時間!」
「もう帰らなきゃいけない時間?」
「そうじゃないけど……もう今から行ってもお店は間に合わないよね…」
店の閉店時間は11時だった。
今から行っても、バスで20分は時間がかかり、閉店してしまうことに優花は気が付いていた。
「って事は、帰るのは11時でいいんだろ?」
「……うん。」
この後に話を切り出したのは優花のほうで、
「まだ時間あるから、公園にでも行かない?もう少しクリスマスの雰囲気楽しもうよ。」

優花の提案で近所の公園に来た二人は、誰もいない広場を前にして二人用のベンチに座った。
一つだけの外灯の下、二人は手をつないでいた。
「今日は災難だったな。」
「うん。もう少しゆっくり過ごしたかった。」
「……また今度行こう。」
雲がかかった空を眺めながら祥は言った。
「そういえば優花、ゲームで獲ったぬいぐるみは?」
「あっ…」
優花ははっとして、
「忘れてきちゃった。ごめん。」
「こんなことが起きたんだ、しょうがないよ。また獲ればいい。」
祥はもう一つ事柄を思い出し、
「ああ、あと、クリスマスプレゼント、もう決めたのか?」
「えっ、あっ……うん。」
「そっか。じゃあ、次に行った時にでも……」
「ううん。」
優花は、祥に体を近づけ、
「別にここでもいいから……」
優花は目をつむりながら、自分の口をそっと祥の顔に近づけて……

空からは、外灯の光を反射させながら、純白の雪たちが地上に舞い降り始めていた―

 

inserted by FC2 system