と、意志を新たにしたところで、
そういや、僕たちのことを読者のみんなに全然紹介していないなぁ……と気づいた。
つーわけで、説明しよう。

僕は、倉田一(くらた はじめ)だ。
さっきの信の言葉にもあったように、
周りからは『おとなしくて、口数少ない奴』だと認識されているらしいが、
実際は、極端にそうであるわけでもない。
休み時間には、ほとんど本を読んでいるから、他のやつとはあまり口を利かないだけなのだ。
ただし、三人は例外である。渡辺信(わたなべ まこと)、河藤鈴(かとう りん)、松山尚(まつやま なお)の三人だ。

渡辺信というのは、僕が物心ついたときから、一緒に遊んでいた、古くからの親友。
元々親同士が仲良くしていたようで、僕たち自身も、生まれて間もない頃から顔を合わせていたらしい。
幼稚園、小学校も同じ所に通い、これは奇跡なのか知らないが、すべての年期で同じクラスだった。
そして、この人は容姿がビシッと整っており、
なおかつ、すべてにおいて好成績、優秀で、文句のつけようがないもんだから、男女の境なく人気者になっている。
僕と仲良くしてて、周りの目が鋭くならないのかと不安になるものの、
どうやら世間は、僕と信が仲良くしていることをデフォルト化しているらしく、おかげで安心して共に行動できているのだが、
僕の存在の濃さは、信が作り出す影によって薄められているようで、『おとなしい』『口数少ない』というイメージはそこからも発生しているのだろう。

河藤鈴と松山尚は、小学三年生頃から知り合った女友達だ。
もとから同じ学校だったらしいんだけど、クラスが違うとそれだけ面識も少ないわけだから、
知り合うより前は、言っちゃ悪いが学校にいたことすら知らなかった。
それが、今では一緒に帰るほどにまで仲良しになっている。何だか不思議だな。
さらに不思議なのは、鈴は元気いっぱいの体育系で、動きもてきぱきしている、茶色みがかったショートヘアーな少女なのだが、
それに対し、尚はおっとりしている文化系で、小さな貿易会社の社長令嬢ということで教育がしっかりなっているからなのか、
小さなことでも丁寧に接する、黒い長髪が特徴のやさしそうな女の子。
性格が正反対なのに、よくまぁ馬があってこうしていられるなと、人間関係の奥深さを改めて実感する。
で、この二人もまた、容姿が飛びぬけて優れており、クラス一の、いや、学年一の男子の注目の的と言ってもいいだろう。
それだけ人気者なのだ。

ま、要するに、僕は四人組の中で、もっとも平凡だということさ。

僕たち四人は、美術部に所属している。
みんな、もっと己の能力を発揮できるところがあったろうに、
読書以外に絵を描くことも好きだった僕に
「美術部に入ろうよ」
と提案してくれたのは他でもない、この三人だった。

結局、僕たちの代で入部したのは僕たちだけだったが、
数少ない先輩達が、仮入部のとき、僕を除くほか三人の、ずば抜けた絵のセンスに愕然としていた記憶がある。
それらの技術は落ちることなく、というかむしろ、格段とレベルが高くなっていて、
逆に僕が足引っ張ってんじゃないかと思うほど、高い石垣の上に立つみんなを、下から見上げるかのように僕の心の目はどんどん細くなっていくのだった。

……ん?
あれ?これじゃあ、なんだか僕に全くとりえがないように聞こえてしまうじゃないか。

「一にだって、とりえはあるさ」
信は、僕のこめかみを指差して、
「頭の回転が速いじゃん」
……
「何か得するかな?」
「それって、ものっすごい得だぞ。物事の正誤を瞬時に見極めることが出来る」
よくわかんないや。
「ま、いずれ自分自身でわかるときが来るだろうさ」

さて、紹介はここまでにして、そろそろ本題に入ろう。
……と思ったけど、今日は何だか疲れたな。
帰宅してベッドの上に寝転がると、急に睡魔が襲ってきた。
四人組のいきさつを頭の中で説明するだけでこんなに疲れるものなのか?
あ、もしかしたら、昼にのぼった血が未だ頭の中でグルグルさまよっているのかも。
……ま、この際どうでもいいか。谷村の無実を証明する方法は、また明日考えることにしよう。


  

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