「口止めされてたか、谷村を救えることに気づかなかったかのどっちかだな」
教室に戻る途中で、信がつぶやいた。
「あたしがあれほど鈍感なら、たぶん口止めされなくても、昨日のあの場では発言しないと思うな〜」
「あの方は、争いごとが苦手だそうですし、自分の身が安全であるように、心の中でストッパーがかかったのかもしれませんね」
全く、世間の人間はどいつもこいつも……
自分が安全であるためには、他人がどうなろうと知らんこっちゃないのか。
「ところで、見学者のことなんだけど」
まだ確認していないことに気づき、見学者について詳しい尚に詳細を教えてもらおうと思った。
「あの三人は、どこで見学してたの?」
「昨日の見学者のお三方は、グラウンドの階段に座って見学していましたが……」
藤野が昼休みにおとなしく座っていた場所と同じ、ということか。
「いつも同じところに?」
「はい。見学する方は、例外を除いては殆ど階段に座って見学します」
尚もちょくちょくに見学するからな。
体質的に、あまり強いほうじゃないからだ。昨日は頑張って走ってたけど。

ここまでの情報を整理しておこう。
藤野は、二時間目に気分が悪いと授業を抜け出している。
また、四時間目の前の休み時間は先生に呼ばれ、少し遅れて着替え始めたため、教室を出るのが最後になってしまった。
しかし、直後に藤野は再び教室へ一人で戻り、自分のロッカーからレポート用紙をとって、教室を後にし、体育を見学。
そして、四時間目が終わってから、あの騒動が起きて、わーわー騒ぎ、僕が挑発を受けてしまう。
昼休みは見学と同じ場所に座って、サッカーをする仲間たちを眺め、昼休みが終わる頃には手が泥だらけ。
部活のときも気分が悪いからと、キャッチボールくらいで済ませ、その他の練習には参加していない。
そして、「友人に金を貸したせいで、金欠である」ことをつぶやいた……
こりゃ、もう犯人なんじゃないか?
「あのさぁ」
不意に、鈴が声を上げた。
「さっきから、藤野のことばっかり言ってるけど、芦屋はどうなの?」
「どういう意味ですか?」
「芦屋の言う事は信用できるの?芦屋が犯人だったら、嘘ついてるかもしれないよ」
確かに、そう考えることも出来るが……
「だったら、芦屋以外の人にも、事情聴取してみる?」
「え?」
「今は芦屋の証言だけで判断してるけど、さっきの芦屋の証言は、全部第三者が関与しているんだ」
「……ごめん、意味わかんないや」
「要は、他の人に聞いて、同じ証言をすれば、芦屋の証言は正しいことになるわけ」
「……ああ、なるほど」
「そんな危ない綱渡りして、嘘つくかな?ってこと。自分しか知らないようなことばっかり証言していれば、別だけどね」
「ふーん」
そう解答し、僕らは、教室へ足を踏み入れる。
とっさに、ロッカーのほうに目をやった。
「それに」
話が終わったものだと油断していた鈴が、びっくりしたように、再度こっちを振り向いた。
「それに、何?」
「決まりだよ」
「決まり……?」
「犯人は藤野だ。これで確信が持てた。犯行の手段も、ほとんど読めたよ」
「えっ……本当に!?」
「うん。谷村は確実に無実だ。良かったね、尚」
「はい、安心しました……」
女二人は安堵の息をもらしているようだ。
だが、信は、不十分であることに気づいている。やっぱり頭がキレてるな。さすがだ。
「でも、決定的な証拠がないんだろ?」
「うん、そこが問題なんだ」
「え、どゆこと?」
「確信を持てたと言っても、その根拠は全部、人からの証言による状況証拠に過ぎないんだよ。
 何か、物的証拠を見せ付けないと、たぶん、藤野はいつまでも食い下がるだろうね」
「そんなこと……あたしたちに出来るの?」
……………
僕の考えが正しいのなら、今、藤野は焦っているはずだ。
「……賭けてみよう。危ない道だけど、方法がこれしか思いつかないんだ」
「どんな方法ですか?」
僕は、小声で、三人だけに聞こえるよう、僕が考える計画を伝えた。
これは、本当に危ない。下手をすれば、取り返しのつかないことになるが……
「これしか、ないのか?本当に」
「うん。他に、安全な策は思いつく?」
「……全く思いつかないや」
「やってみるしか、ないのでしょうか……」
それぞれが不安な気持ちを抱えながら、僕らはこの策に乗った。
昼休みも、残り少ない。行動を機敏にせねばならない。迷っている暇はない。
僕らは、協力を要請すべく、谷村と中鵑里發箸惷遒唄鵑辰拭


  

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